なぜ、Webサイトに情報アーキテクチャは必要なのか

10/21/2008

Webの構築に携わっていると、おそらく耳にしたことぐらいはあると思われる、「情報アーキテクチャ」。

大抵の人は「あー、情報設計ってやつでしょ?」と思っているだろうし、Webディレクターなど実際の現場を見てる人は「サイトマップやワイヤーフレーム作る工程ね」と思っている人も多いかもしれない。

ウィキペディアによれば、

情報アーキテクチャ(Information Architecture)は、知識やデータの組織化を意味し、「情報をわかりやすく伝え」「受け手が情報を探しやすくする」ための表現技術である。

と、かなり広い定義になっている。

Web構築などのプロジェクトでは、メンバー間で「情報を分かりやすく伝え」る手段として、結果的にサイトマップやワイヤーフレームが用いられることもあるが、それら単体がイコール情報アーキテクチャというわけではない。また、同じ目的に向かってビジョンを共有しているメンバーである、という前提を取り除いてしまうと、そもそもサイトマップやワイヤーフレームでさえ「情報を分かりやすく伝え」ることができないかもしれない。

企業やサイト運営組織がビジネスゴールの達成のために、顧客やユーザーに伝えるべき情報がある時に、それらを「わかりやすく」、見栄えよく表現したとしても、必ずしも受け手である顧客やユーザーにとって「わかりやすい」とは限らない。顧客やユーザーの知識レベルや経験値、その時の感情などによって印象や受け止め方が変わるからだ。そのため、「情報をわかりやすく伝え」「受け手が情報を探しやすくする」ためには、必ず、顧客やユーザーのことをよく知る必要がある。もちろん、伝えるべき情報の本質を把握するために、企業やサイト運営組織側のコンテキスト、つまり事情や経緯を知っておくべきなのは言うまでもない。

コンテンツを考える際、「こんなサイト構造なんじゃないかな」とか「ここにこんな情報を置いておこうかな」といった(極端だが)、例えば一Webディレクターの想像によって設計が進んでしまうケースも多いのではないかと思う。もちろん、かなり一般的なサイトの場合にはベストプラクティスと呼ばれるものを適用していくこともできるし、小規模なサイトで、また発注主側のWebリテラシーが低いような時、このようなプロセスで十分なこともあるだろう。しかし、本来は最終的に使う人を中心に据えた検討と設計を行うべきだし、これらは、ユーザー調査に基づく分析とモデル化によって実施されるのが一般的である。もっと言うと、ユーザー像が見えなければコンテンツやサイトの最終像も見えないわけで、プロジェクト自体の方向性が大きく変わることがあり得る。だから、情報アーキテクチャは企業のビジネス方針やブランド戦略とも密接に関わり、いわゆる超上流といった部分で、かなり不定型な業務を担うことになる。

とはいえ、上流にしろ、制作工程にしろ、伝えるべき情報(コンテンツ)とユーザーをどのようにつなぐかを考えることが情報アーキテクチャであると言えるのだが、Webでは平面に情報をただ並べて、「はい、どうぞ」と見せるだけというケースは少なく、むしろ、コンテンツとユーザーの「対話」によって新しいアクションが起こったり(例えばフォームに何か入力することで、次の設問内容が変わったり、次ページが表示されるなど)、あるいはユーザーの意思やサイト側のレコメンドによって別のエリアやページに移動することも多い。

Webサイトを見る時、きれいなグラフィック素材やレイアウト、色彩に目がいくことも多いが、サイト側の振る舞いや空間、ユーザーの動き方なども総合的にみてみると、Webはグラフィックとは異なり、よりプロダクトデザインに近いと言える。

そのため特にWebにおける情報アーキテクチャでは、コンテンツとユーザーをどのようにつなぐかだけでなく、「どのように使われるか」「何を体験させるか」の考慮も必要で、最近では情報アーキテクチャとユーザーエクスペリエンスの境界も曖昧になっている。どちらか一方によって、ユーザーへの最高のサービスを提供できるというものでもないので、そもそも境界線を引くこと自体がナンセンスということだ。

というわけで、情報アーキテクチャはけっこう奥が深く、類似・近接領域も多岐に渡るため、インフォメーションアーキテクト(※)と呼ばれる情報建築家だけでなく、発注側の広報担当者やマーケティング担当者にも、プランナーやビジュアルデザイナーにも、もちろんディレクターやエンジニアにも知っておいて欲しい知識である。

ちょうど、明日、銀座のアップルストアでエントリーレベルを対象としたIAのセミナーも開催されるので、最初のきっかけとしてIAについて学んでみるのにいい機会かもしれない。

日時:2008年10月22日(水)19:00-20:00
場所:アップルストア銀座
タイトル:「なぜ、Webサイトに情報アーキテクチャは必要なのか」
講師:株式会社コンセント代表取締役社長/インフォメーションアーキテクト 長谷川敦士氏
費用:無料
詳細と申込み:mixiのWDEコミュニティ内


このイベントは11月7-9日に開催されるWeb Directions Eastのプレイベント。


※インフォメーションアーキテクトとは、情報アーキテクチャを構築するプロフェッショナルの呼称。インフォメーションアーキテクトの第一人者でもあり「Information Architects」の著者でもあるリチャード・ソウル・ワーマンは、その著書の中でインフォメーションアーキテクトを次の通り定義している。

1. データの持っているパターンを整理し、複雑なものを明快にする人。
2. 人が知識への経路を見つけるための情報の構造や経路をつくる人。
3. 時代の要請により21世紀に新しく生まれつつある、明快さ、理解、情報の組織化を専門とした職業。


投稿者 nao 時刻: 22:04 0 コメント