製品によって異なるCMSの設計工程
9/15/2007
突然ですが、CMS導入に関するセミナーや記事、比較サイトはとっても多いです。そして、制作会社やSIerが開発した「なんちゃって」製品やオープンソースものまで含めると、CMSと名乗っている製品は星の数ほどあります(いや、そんなにはないけど)。
そんなわけで、なんとなく社内や取引先から「今度のサイトリニューアルでCMSを入れたいんだけど」という話が出た時に、めぼしい製品を見つけようにも、よーーーーっぽどオタク的にCMSラブ★な担当者がいない限りは、一体なにから始めたらいいのかよく分からないはず。
セミナーや記事なんかからそれなりに知識を得て、「CMSを入れると、あんなことやこんなことができそうだ」「こんなことに気をつけた方がいいらしい。」くらいは分かるかもしれません。でも「こんなところが便利そうだから、お金ください」程度じゃぁ、残念ながら社内やクライアントの決裁を取ることはできない。
なぜ今CMSを導入しなくちゃいけないのか?
なぜそのCMS製品を選ぶのか?
いくらかかるのか?
導入するのに期間はどれくらいかかるのか?
既存コンテンツはどう共存(または移行)できるのか?
導入すると運用はどう変わるのか?
などなど、決裁者を納得させなくちゃいけないことは山ほどある。
CMS製品の選定なんてほんと大変だ。50,000円そこそこの製品から下手したら数千万、数億円くらいのものまである。もちろん、金額によって、その製品でできること・できないことはあるんだろう。でも、製品規模はあるものの、どの製品メーカーのサイトを見たって、それなりのことが書いてあるし、ある一定のレベル以上のものならなんとなくどれも良さそうに見えて来たりする。
さらに、CMS導入では社内政治の壁にぶちあたることがかなりの率で起こるはず。なぜなら運用フローが変わる可能性があるから。今までは「HTMLは分からないから・・」と制作部門に丸投げして逃げてた担当者が、HTMLが分からなくても更新できる環境が整ってしまった瞬間に、自分で最後まで作業する必要が出てくるのかもしれない。また、これまで制作・開発・運用を請け負っていた会社、事業部の仕事が激減するかもしれない、などなど色んなことが考えられる。
ま、その社内政治的なところはどうしようもないので、なんとかしてもらうとして、製品選定についてちょっと書いてみようか。
私が知る中で、というと、さも私がものすごく色々知っているように聞こえるが、ものすごくオタク並みに知っているわけではない。システム屋でもないので、ごく一般レベルの知識(もしくはそれ以下)でしかないし、感覚的なところではあるのだけど、なんとなーくめぼしいCMSというと、
・Six Apart社のMovable Type4
・フレームワークスソフトウェア社のWebRelease2
・アシスト社のNOREN
・Interwoven社のTeamSite
というところだろうか。MT4は、Moveble Type3と比べて若干CMSを売りにバージョンアップしたようなので挙げてみた。
これらをスーパーざっくりと感覚的に分類すると、
Movable Type4:
簡単に記事を追加したいというブログの延長で使うくらいの感覚で、小規模サイト(数百ページとか)が対象というイメージ。
ライセンスだけなら5万円台からだし、そもそもがサイト規模が大きくないとするので、設計やデザイン費用もそんなにかからないと思うので、100万〜300万円くらいでそれなりのサイト構築が可能。WYSIWYGエディタあり。
WebRelease2:
デザインと更新性を重視した、中小規模向けサイト(数千ページとか)が対象
ライセンスは、対応しているサイトのページ数の違いで52.5万円か315万円。サイト規模やそこで何をやりたいかということはあるけど、サイト構築にかかる初期費用としては、400万円〜600万円前後くらい。
NOREN:
中〜大規模向けサイト(数千〜1、2万ページくらい?)が対象
Webリテラシーがそんなに高くない人が担当している企業・団体にウケがいいらしい。
これもサイト規模や環境(配信先の数とかユーザ数とか)によって大きく違うだろうけど、800〜1,000万円オーバーくらいのレンジじゃないでしょうか。WYSIWYGエディタあり。
TeamSite:
これはもうほんとハイエンドの類に入るはずで、いわゆるジャイアントなグローバル企業が対象。
導入費用もライセンスやミニマム構成だけで軽く1,000万円近くかかるだろうし、この規模のサイトを移行したりリニューアルしようなんて考えたら、設計費やデザイン費などなどもかなりかかると思う。ので、3,000万〜数億円はかかるのではないでしょうか。WYSIWYGエディタあり。
余談ですが・・・、WYSIWYGエディタあり、といちいち書いてみたけど、Webリテラシーのそれほど高くない担当者の場合は、これはとっても魅力的な機能かもしれないけど、製品によっては、ユーザーがこのエディタで文字の大きさ変えたり色変えたり、色々やることでソースに無駄にタグが入ってしまったり、それこそW3Cで推奨されていないような、むしろ「へ?化石?」くらいのソースが入ってしまうというビミョーな面もあるのでご注意を。
というわけで、そもそも金額にこれだけ開きがあるので、予算規模によって「じゃー、うちはWebRelease2しかダメじゃん」というところもあるのでしょうが、基本的にCMSを導入する一番の動機が何なのかによって、導入できる製品がほぼ自動的に決まってきます。
まず、本とか読むとCMSのメリット、デメリットが色々書いてあると思いますが、強いていえば次のどちらがあてはまりますか?色んな複雑な条件に惑わされずに、この2つの中から選んじゃってください。
1. 「コンテンツ運用をカンタンに」タイプ
文字一つ直すにもソースいじらないといけないし、制作会社にいちいち依頼すると時間とコストがかかって嫌だ。
つまりCMSに期待することは、とにかくコンテンツ運用をカンタンにできること。
2. 「配信管理や承認フローをキチンと」タイプ
日本版SOX法がなんちゃらだのコンプライアンスだの、色々と内部統制の要求が出てきたので、今のサイトのままだとやばい。
つまりCMSに期待することは、いざとなれば「昨日の状態のサイトにえいっ!」とタイムスリップできるような配信管理や、責任の所在が明確な承認フローでキチンとサイト運用ができること。
1の「コンテンツ運用をカンタンに」を選んだ場合は、導入検討の価値があるのはMoveble Type4かWebRelease2です。もっと言えば、文字中心の記事ものが多いサイトだったらMovable Type4で、デザイン性を重視したサイトや、ポータルっぽい見せ方をしたいサイトならWebRelease2です。なぜならこの二つ、権限管理(デザイナーはこのファイルはいじれる、管理者はテンプレートやソースもいじれる、など)はできますが、ワークフローがありません。WebRelease2はデザイン上の制限が一切ないので、ごく普通にページデザインができます。
2の「配信管理や承認フローをキチンと」を選んだ場合は、NORENかTeamSiteです。さらに言えば、世界中に拠点があるような、各国語のサイトも各国に散らばってて、言語も色々で、ページ数も数万以上あって、そもそも既存サイトももはや全ページまでは把握できないくらいだ!というあなたの場合はTeamSiteしか救ってくれるCMSはありません。金にものを言わせてなんとかしましょう。この二つはどちらも権限管理もワークフローもあるので、最低限の「キチンと」運営はできると思いますが、TeamSiteにおいては既存サイトを短期間で移行しなくちゃ!という場合にスーパー便利な機能があります。フォルダーをコピーするくらいの勢いで、既存サイトごと飲み込んでくれるのです。このページはこのテンプレートに沿った形に直して・・・×2万ページ、なんちゅーことをしなくても、既存サイトのデータが入ってるディレクトリをまるっとドラッグ&ドロップくらいの作業をすれば、明日からでも膨大なサイトをキチンとした承認フローで配信管理できます。一刻も早くサイト更新ヒストリーを蓄積する、ということを優先させるならこれでしょう。
で、長々と、おおざっぱなCMSの選定について書いてみましたが、私が今日書きたいと思っていた主題は実はそんなことじゃぁありません。前置きだけで辟易しているでしょうが、ここからが重要です・・・(ーー;
よって、今までのところは読み流していただいてけっこう!(もう遅いか・・・)
CMS導入というと、製品選定だけで大変だし、社内政治をどうしようかみたいなところでパワーを消費するので、いざ製品が決まって導入することが決まると、設計したりデザインしたり開発しよう、というプロジェクト段階のことまでそんなに精査してる余裕がないような気がしますが、実は、選ぶ製品によって、この工程、特に設計段階の工程は大きく変わります。
この際、小規模なMovable Type4や大規模すぎるTeamSiteについてはとりあえず置いといて、WebRelease2とNORENだけで比較しますが、設計はまるで違います。
開発環境がどうだとか、DBがどうだとか、必要なインフラはどれだとか、そんなシステム的なこともとりあえずほっときますが、見積りを作る営業の皆さんやWebディレクターの皆さん、もしかしたらデザイナーの方など、そのレベルの方でも「おっ、マジで?それはやばいね、聞いとかないと」というような話です。
またまた非常にざっくりはしょって書きますが、設計工程は多分こんな感じ。
WebRelease2:
リニューアルしようかな、レベルの緩い企画(でもなんとかなる)をする
→ハイレベルサイトマップ作る
→テンプレートマップ作る
→詳細サイトマップは作らない、あるいは緩くても大丈夫
→各テンプレートの画面設計(ワイヤーフレームというよりテンプレート仕様書)
→デザイン
→コーディング
→テンプレート開発
→コンテンツ登録(ページに配置する文字とかはこのタイミングで、考えながら入力でもいいくらい)
NOREN:
サイトとコンテンツの概要を企画する
→ハイレベルサイトマップを作る
→詳細を企画する
→詳細サイトマップを作る
→各画面の画面デザイン(ワイヤーフレーム)
→テンプレートマップを作る
→各テンプレートの画面設計(テンプレート仕様書)
→デザイン
→コーディング
→テンプレート開発
→コンテンツ登録
というわけで、割とNORENの方は、ごくごく普通のウェブ構築という感じだろうと思う。
WebRelease2の場合はテンプレートが先に決まっても、グローバルレベルのメニュー構成が変わるとか、特殊なインデックス化とかをしないのであれば、割と柔軟にコンテンツ対応できるので、大枠が決まったら、制作会社が制作してる間に、発注側はよりよいコンテンツを作るべく、文字レベルであれこれ検討し、試行錯誤することができる。もっと言っちゃえば、企画工程をすっ飛ばしても制作に取りかかることができるので、工期が短くてすむのだ。
NORENだと、しっかり企画し、その企画段階で社内でもちゃんと承認、ハイレベルサイトマップを作る段階でもけっこう時間がかかり、詳細サイトマップも作って承認して・・と、とにかく発注側で社内を取り仕切って企画フェーズをがっちりやるか、自分たちで社内を取り仕切るのを諦めるのであれば、このやや上流部分の企画から制作会社に振る必要があるので、予想しているCMS導入費用プラスαで、企画・詳細フェーズでコストがかかりそれだけ期間も必要になることになる。
もちろん、制作会社や発注会社の種類にも寄るのだろうけど、ざっくりざっくり言うと
WebRelease2は、初期段階でコストが割と固まりやすく、見積りも1回で済む可能性が高い。
NORENは、企画内容で開発内容がぶれるので、企画フェーズで見積り・発注。企画が固まった段階で制作・開発分を見積り・発注、と複数回の発注が必要になる可能性が高い。
そんなわけで、導入する製品が決まったもう安心!ということはなく、プロジェクトの進め方や必要となる能力や期間が変わったりするので、そこまでを見込む必要があり、そういう進め方まで踏まえて対応できる信頼できるパートナーを探すことが必要です。制作(デザイン)の範囲内の設計でいいのか、しっかりとした情報設計ができるパートナーが必要なのか、それは発注側の体制やスキル・経験に依存する部分も多いということです。
ここで紹介した製品やそれ以外のものもそうでしょうが、大抵のCMSベンダーは制作・セールスパートナーの会社がいるので、ベンダーのサイトでパートナー会社のページから制作してくれそうな会社を探すこともできると思うし、そうじゃない場合は、こんなサイトを見てみるのもいいんじゃないでしょうか?
CMS比較.com
http://www.cmshikaku.com/
運営会社:
株式会社アイアクト
ウェブエキスパート
http://www.webexp.jp/index.html
運営会社:
株式会社ロフトワーク
CMSナビ
http://www.cmsnavi.com/
運営会社:
RAUL株式会社
有限会社ワンダーウォール